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STUDIO TORIUMI / RESEARCH

ボードゲームのアプリは、
ほぼ全部が買い切りだった。

有名ボードゲーム50作について、iOSアプリが実在するかどう課金しているかをApp Storeの実データで調べました。 結果、モバイルゲーム全体の常識と正反対のことが分かります。 そしてもう一つ——日本でいちばん有名な作品ほど、アプリが無い。

31 / 50アプリが存在した作品
29 / 31そのうち買い切り
$8.99買い切りの中央値(約1,350円)
19アプリが見つからない作品

01 / FINDING基本無料が、ほぼ存在しない

これが今回いちばん意外だった点です。スマホゲームの売上は基本無料+アプリ内課金が大半を占めますが、 ボードゲームのデジタル版だけは、そこから完全に外れています。

アプリがある31作のうち、29作が買い切り

無料はたった2作です。しかもその無料勢も、広告でもガチャでもなく 本体無料+拡張を個別購入という、パッケージ販売に近い形をとっています。

価格帯は$3.99〜$10.99、中央値 $8.99。日本円でおよそ1,350円です。 スマホアプリとしては高い部類ですが、実物のボードゲームは5,000〜8,000円するので、 買う側から見れば安い。この価格差が成立の条件になっています。

なぜ基本無料にできないのか

基本無料は「続けさせて、途中で課金させる」設計です。 スタミナ、ガチャ、時短、期間限定。どれもゲームの外側に仕掛けを足すことで成立します。

ところがボードゲームはルールが完成済みで、しかも公開されている。 後から課金要素を足すと、元のゲームが壊れる。バランスを崩さずに搾取できる隙間が無い—— これが構造的な理由です。

結果として、この領域は「良いものを作って一度売る」しか手が無い市場になっています。 個人開発者にとっては、むしろ戦いやすい条件です。

勝っているのは一社ではない

パブリッシャ別に見ると、Twin Sails Interactiveが7作Dire Wolf Digital LLCが5作CGE Digital s.r.o.が3作。上位3社で15作を占めます。 大手が総取りしている構造ではなく、小規模なスタジオが数作ずつ持っているのが現状です。

レビュー数の首位は Catan Universe(約3.1万件)ですが、 評価は★3.6と低く、知名度で人が来て、出来で失望している典型的な形をしています。 逆に上位の買い切り勢は★4.5〜4.9に集中していて、数は少ないが満足度は高い

02 / DATA50作の一覧

App Store(米国・日本)を検索し、ジャンルがゲームで、題名が一致し、 ボードゲームのデジタル版を出している会社が出しているものだけを本家と判定しました。 レビュー数は米国ストアの値です。

タイトル課金 価格レビュー

03 / GAP日本で最も有名な4作に、アプリが無い

「誰でも名前を知っている」水準の作品を抜き出すと、穴がはっきり見えます。

ただし、これは「作れる隙間」ではありません

この4作が消えた理由の多くは配信終了です。作られなかったのではなく、 作られて、畳まれた。権利はいずれも出版社が持っています。

つまりここにあるのは技術の穴ではなく、権利の穴です。 同じものを勝手に作って出すことはできません。ここを勘違いすると、 作った後で全部消すことになります。

04 / WHATでは、個人開発者に何ができるのか

権利の壁を踏まえた上で、実際に取れる道は3つあります。上から順に現実的です。

① 権利の切れているゲームを、いまの水準で作り直す

囲碁、将棋、チェス、バックギャモン、花札、カルタ、ドミノ、麻雀。 ルールに著作権は無いので、これらは自由に作れます。

「もう山ほどある」と思うでしょうが、ほとんどが広告だらけで作りが古い。 上の調査で分かったとおり、この領域の客は買い切りに金を払う習慣がある。 広告なしの丁寧な一本には、まだ場所があります。

② 小さい出版社にライセンスを取りに行く

大手(Asmodee系)は自社でデジタル化するので入る余地がありませんが、 個人〜小規模の作者・出版社は、デジタル版を出す手段を持っていません

日本のインディーズボードゲーム界(ゲームマーケット周辺)には、 面白いのに数百部しか刷られていない作品が大量にあります。 レベニューシェアで話が通る可能性は、大手より遥かに高い。

③ 「アプリ化されていない仕組み」だけを借りる

ルールは保護されませんが、名前・アート・世界観・固有名詞は保護されます。 逆に言えば、仕組みだけ学んで自分の題材で作るのは合法です。

実際、いま売れているボードゲームの多くが先行作の仕組みを踏まえて作られています。 丸ごと真似るのは駄目、仕組みを学ぶのは正道——これはボードゲーム業界の常識でもあります。

やってはいけないこと

既存作の名前をそのまま使うアートを流用する、 「◯◯風」と銘打って本家と誤認させる。これらは権利侵害です。

ストアからの削除で済めばまだ良いほうで、開発者アカウントごと停止されることがあります。 取り返しがつきません。

05 / METHOD調べ方と、この調査の限界

数字だけ引用されると誤解が生まれるので、どう作ったかを書いておきます。

やったこと

iTunes Search API で米国・日本の両ストアを検索し、 ①ジャンルがゲーム ②題名が前方一致 ③既知のボードゲーム系パブリッシャ、または題名が完全一致 の3条件を満たすものだけを本家と判定しました。50作 × 2ストア。

限界1 — 「アプリなし」は「存在しない」ではない

配信終了、名前が大きく違う、判定条件から漏れた、のいずれもあり得ます。 「現時点のApp Storeで、この条件では見つからなかった」以上のことは言えません。

限界2 — 売上ではなくレビュー数

ストアは売上を公開しません。レビュー数は規模の代理指標であって、 売上そのものではない。無料アプリはレビューが付きやすく、買い切りは付きにくい傾向もあります。

限界3 — Androidは補助的にしか見ていない

Google Play には公式の検索APIが無く、HTMLの構造も頻繁に変わります。 パッケージ名の確認までに留めました。数字はiOS側のものです。

限界4 — ランキングは手で選んでいる

BoardGameGeek のAPIは現在401で閉じられています。 そのため50作は、BGG上位と日本での知名度を見て手で選びました。 網羅ではなく、標本です。

調査日

2026-08-29 時点のApp Storeのデータです。価格も配信状況も変わります。 引用するときは日付を添えてください。